不確定性原理についての修正理論と検証実験2012年01月16日 20:59

 「不確定性原理」という物理学の基本原理があります。
私は学部生の時に学びました。
理系を目指す高校生なら,
高校生の時から, その名前は知っているかも知れません。
私が学んだのは, Karl Heisenberg(カール ハイゼンベルク)の
思考実験に基づく式(*1)で, 位置の誤差と運動量の誤差の積は,
必ずh/2πより大きくなるというものでした。
この不確定性原理があるので,
私が専門としている(*2)化学の世界では,
原子に束縛されている, 運動する電子の位置と,
運動する方向を同時に確定できないため,
原子核の周りを運動している電子には「軌道」はなく,
確率密度と呼ばれる,
電子が存在している可能性が高い空間を「雲」にして描いていました。

 このように, 化学の世界(に限らないでしょうが)では
大変基本的な原理が, 修正を求められるようです。
名古屋大学小澤正直氏が提唱している,
小澤の不等式と呼ばれる, 数学者が提唱した式を,
オーストリアの研究者等が実験で検証したようです。(*3)
小澤の不等式は, Heisenbergの式に
補正項を追加した形になっています。
補正したのは, 「量子ゆらぎ」と呼ばれる,
物質が本質的にもっているゆらぎのようです。
Heisenbergの式は, 対象物質測定時の誤差という考えがあって,
測定対象の位置や運動量には, 唯一の値があることが
前提となっていたのですが,
小澤氏は, その前提を修正した, という理解で良いのでしょう
(間違えた理解でしたら, どなたか教えて下さい。)。

 不確定性原理が否定されたのではなく,
修正されたという理解でよいのだと思いますが,
となると, 化学の世界にはどのように影響するのでしょう。
私は「量子ゆらぎ」という物を理解していないので,
化学への影響について何も想像できませんが,
位置も運動量も同時に決められない電子についての思いが
少し変わり, ワクワクする研究成果のように思いました。

(*1) http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8D%E7%A2%BA%E5%AE%9A%E6%80%A7%E5%8E%9F%E7%90%86
このブログを書くために記事を参照したWikipediaは,
既に(*3)の情報を記載しておりました。仕事が速いですね。
(*2) 教員・研究員を辞めましたが,
それでも, 現役の化学者であり続けたいと思っているので,
こう書かせて下さい。
(*3) http://www.nature.com/nphys/journal/vaop/ncurrent/full/nphys2194.html
但し, 購読していないと概要しか読めません。
私は購読するお金も読む時間もないので, 次の記事を読みました。
http://www.nikkei-science.com/?p=16686
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8D%E7%A2%BA%E5%AE%9A%E6%80%A7%E5%8E%9F%E7%90%86

酸化鉄(II)が高温高圧だと, 違う挙動を示す, という実験2012年01月16日 21:35

 鉄の酸化物を専門としていた私なので,
表題の記事(*1)は, 面白く読ませてもらいました。
酸化鉄(II)(*2)(化学式はFeO)が, 高温高圧条件にすると,
結晶構造が変わらないのに, 電気伝導性が変化することを
見付けたようです。

 FeOという物質は, 大気圧(1気圧, 1.02 × 10^5 Pa)では,
Fe : O = 1 : 1にはなっていません。
Fe2+の一部がFe3+になっているため,
FeよりもOの方が多くなっています。
これを高圧環境へ持っていくと, Fe : O = 1 : 1を作ることができます。
電気伝導性は, バンド理論によれば, 金属的になるのですが,
実際には絶縁体とされています。
今回発表があった実験は, 70万気圧(^^;, 1600 ℃以上という,
なんだか物凄い環境だったようです。
この環境にすると, 金属としての挙動,
つまり, 高い電気伝導性を有する, というのだそうです。
そして, そう変化した原因は,
鉄原子に属する電子の, スピン状態の変化による,
と考察されていました。
電子のスピン状態が変わると, 固体の電気伝導性が変わる,
というのは, 今の私には理解できないことなのですが,
それはともかく, この高温高圧の鉄酸化物(II)の研究成果は,
固体物理学に新しい情報を提供しただけでなく,
そのまま地球内部における, 酸化鉄(II)の挙動に
当てはめられるのだそうです。
地球内部のマントルや外核部には,
この酸化鉄(II)が存在していて,
地球の自転に深く影響している, らしいです。
酸化鉄(II)がそんな物質だとは知りませんでした(^^;。

 先のブログで書いた記事よりも, こちらの方が面白そうです(^^;

(*1) http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120116-00000027-mycomj-sci
上のURIで初めて記事を読み, 元の情報を検索したら,
次に辿り着きました。
http://prl.aps.org/abstract/PRL/v108/i2/e026403
更に, 文部科学省の施設SPring-8でも, 解説がありました。
実験(の一部?)は, SPring-8を使ってなされたようです。
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2012/120113

(*2) (*1)の記事では, 酸化第一鉄と書いてありますが,
これは古い呼び名で, 酸化鉄(II)と書くのが強く望まれる書き方です。
特に, SPring-8の方々には, 訂正をお願いしたいですが,
現役でない私が何を言っても駄目でしょうね(^^;。
尚私には, 鉱物名ヴスタイトの方が馴染みがある呼び方です。